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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10047号 判決

理由

一、被告が原告から本件手形一通をうけとり、訴外株式会社岩崎工業社において被告が割引を得、これによつて取得した金員を被告において費消したこと、原告が本件手形につき原告主張金員を本件手形振出人として支払をしたことは当事者間に争がない。

二、そして、被告から原告に対し、本件手形の交換の手形として互に融資の目的で被告主張の手形一通が振り出されたことは当事者間に争がないところ、被告は、右被告振出の手形の手形金は被告が決済したから本件不当の利得は成立しない旨主張するが、被告が右被告主張の被告振出の手形の手形金を被告において支払つたと断ずべき証拠はない。いずれも原告名下の印影が原告所持の印顆により顕出されたことに争ない乙第一、二号証の存在もいまだ被告が支払をしたことを認めるに至らない。却つて、原告本人尋問(第一、二回)の結果によれば、本件手形の見かえりとして原告がうけとつたものである被告主張の手形は原告がこれを訴外椎名某方へ持参したが、後不渡となつたので、原告において決済したことを窺い知り得る。

三、しかして、以上の事実に原告本人尋問(第一、二回)の結果を併せ考えれば、本件手形は、当初は相互に融資の目的で手形の交換の形式で原被告間に振り出し合つた手形の一であるけれども、各手形がその目的を達した現在、本件手形は割引によつて得た金員を被告において費消しそれに相応する額が決済のための原告の出捐のままにのこり、他方被告振出の手形は被告が決済すべきを却つて原告において被告に代つて支払をして決済されていることとなるので、本件手形に関する被告の右費消と原告の右出捐という右財産的価値の移動を、公平の理念からみるときは、原被告間においてこれを是認すべき正当とする理由はないのであるから、原告が訴外会社に支払つた原告主張金員を被告において不当に利得しているものとして返還すべき筋合である。

なお、原告が訴外会社に支払つた金額は当事者間に争がないので、他に特段の反証のない本件では被告の利得もまた右金員の額において残存すると推定する。

それであるから、右金員十一万一千七百十八円および原告本人尋問の結果(第一回)、弁論の全趣旨によれば、被告は被告が同金員を原告に支払わねばならぬことは諒知していたことを推認できるので、悪意の利得者として右金員に利息を付して返還すべく、右金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四十年十一月二日(このことは本件記録により明らか)から完済まで民事法定利率である年五分の割合の利息の付加支払を求める部分は正当である。

四、次に、請求の原因二項の事実につては被告において明らかに争わないので自白したものとみなされる。そして加工作業をした当時原告は鉄鋼業を営んでいたこと原告本人尋問(第一回)、の結果により推認できるので、原告主張加工賃残金三万五千五百八十円とこれに対する本件準備書面の被告送達の翌日である昭和四一年四月二七日(このことは本件記録上明らか)から完済まで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分も正当である。

五、よつて、原告の本訴請求はすべて理由があるので認容。

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